朝日新聞 オピニオン『子育て支援の死角』
「会社にもっと女性を」というなら、「家庭、地域にもっと男性を」といいたい。
総選挙を前に当会常務理事西川の発言を、縁あって、
朝日新聞オピニオン欄で取り上げていただきました。
10年間、ヤキイモをしながらあたためてきた想いです。
追い立てられ、責め立てられるような空気が、
だんだんと強くなっていく社会を、
ゆっくりとゆるめていきたい、と思います。
ヤキイモは、焦げないように低温で、
長い時間をかけるほど甘くなっていきます。
あせらず、でもしっかりと、
あたたかい社会にしていきたいと思っています。
お読みいただければ幸いです。
そして、ぜひみなさんのご意見をお聞かせください。
2014.12.13 オピニオン欄
(2014衆院選)子育て支援の死角
■「遊び」生む政策が必要だ 西川正さん(NPO法人理事)
「おとうさんのヤキイモタイム」というキャンペーンを、所属するNPOで2005年から行っています。たき火で緊張をほぐし、甘いお芋を食べて子育て中の父親たちを地域でつなごう、という趣旨で埼玉県の各地で開催し、これまで延べ5万人以上が参加しました。
続けていてうれしいのは、卒園式などで自分の子以外の子の晴れ姿を見て泣くお父さんがいることです。子供たちと一緒にお芋を食べ、遊ぶことを重ねる中で、父親たちもまた「地域の子供」の成長を一緒に見守り喜べる「地域の大人」になっているのだと思います。
長女の子育て中、赤ん坊もずっと向き合っていると、だんだんうとましく感じるものだと気づきました。仕事よりもずっと大変でした。そして、行き詰まったとき一緒に見てくれる人がいると、ずいぶん楽になることも知りました。
しかし、地域では人と人とのつながりが弱まる一方です。たき火をすると「煙が来る」「危険だ」という苦情を役所に通報する人が増え、顔を合わせて、折り合っていこうという気風はどんどん薄れてきました。その結果、多くの公園には禁止の立て看板があふれています。
子供は本来、迷惑をかけながら、成長していきます。しかし現代は苦情に満ちた社会。大人も子供もみな自分が責められたくないと緊張し、小さなケガやケンカすら許容できません。
多くの人がかかわる共同の営みだった子育てや教育もお金で買おうとする傾向が強まりました。「お金を払っているのだからサービスの要求は当然」と いう「消費者化」した親のふるまいが保育者や 教師の気持ちを萎縮させています。こうした親たちの「お客さん」としての姿勢が孤立と隣り合わせなのです。
子供は毎日ろくなことをしません。昔も今も同じです。問題は、大人にそれがどう見えるかだと思います。車のハンドルに遊び(余裕)があるように、人々の気持ちに少しの遊びがあれば、そんな子供たちのふるまいがおかしく見えてきます。
安倍政権は「地方創生」を掲げてもっと経済を、といいますが、それだけでは子育てが楽しいと感じる親は増えません。気持ちに遊びをつくるには、雇 用を安定させ、時間を確保することです。 「ワーク・ライフ・バランス」を確立する政策を進めることが急務です。「会社にもっと女性を」というなら、「家 庭、地域にもっと男性を」といいたい。働き方を改め、男女がと もにかかわれる条件をつくるべきです。仕事以外は女性の問題としてきた結果が、今日の少子化 なのではないでしょうか。
近所の人とたき火を囲んで、ゆっくりおしゃべりができる。そんな時間を取り戻したいのです。
(聞き手・古屋聡一)
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にしかわただし 67年生まれ。市民参加型の街づくりを提唱する認定NPO法人「ハンズオン埼玉」常務理事。地域での子育てを呼びかけるさいたま市発行の「父子手帖」を企画編集。
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